Pretty in pink


俺が大佐の嗜好について、確信をもって語れることがひとつある。
誰もが軽いショックを受ける、実年齢よりも大幅に若く見られる外見にはおよそ不釣合いな、彼のオヤジじみたアナクロニズム。
それに気づいたのは、もうだいぶ前のことだった。

「大佐、そんなにアレがお好きなんですか?」
「は?いきなりなんだ、ハボック。大体アレってなんなんだ?おまえも部下を持つ身なんだ、ちゃんと意思の疎通をはかれる言葉遣いをしろ」

偉そうに俺に説教を垂れているくせに、彼の視線はまったく別の方を向いている。
俺とのお忍びデートの最中だというのに、まったくこの人の節操の無さはもはや病のレベルに達していると言ってもいいだろう。

「はいはい。アレというのは、さっきまでアンタがにやけた顔で見つめていたもんですよ。わかりましたか?」

いや、厳密に言えば、大佐がにやけた顔で見つめていたものの「色」が正しい答えだったのだが。

「本当にアンタってピンク色が好きなんですね。つーか、女性が見につけているピンク…って言ったほうがいいのかな?」

さっきすれ違ったブルネットの女の子の、むき出しの細い肩に掛けられた薄手のピンクのショールに、彼の目は釘づけになっていたのだ。
そのくせ、彼はその女の子の顔なんてまともに見てはいなかった。
それは絶対だ、賭けてもいい。
どんなトラウマが彼の心を奪うのか、それともただのフェティシズムなのか、そんなの俺には知りようも無いけれど。

「すみませんね、アンタの大好きなピンク色がまったく似合わないこんなデカイ男が、せっかくの非番の日のデートの相手だなんて」

少しばかり嫌味を言っても罰は当たらないだろう。
俺はずっと前から彼のことしか見ていないのだから。

「誰がおまえにピンク色が似合わないと言ったんだ?」

俺が吐き出したささやかな毒なんて、あらゆる血清を手にしている彼にはまったく効き目はないとは思っていたけれど、
こんなに鮮やかに切り返されるとは考え付きもしなかった。

「ハボック、もしもおまえが出世したいと思っているのなら、まず敵を知るよりも自分のことを知れ。――――おまえは誰よりもピンクが似合う」

最後の一言を耳元で囁きながら、彼はいたずらな舌を伸ばして、俺の耳たぶをチロリと舐めあげたのだった。

「うわっ、大佐!こんなところで何すんですか!」

人通りが途絶えていたとはいえ、ここは天下の往来だ。
はっきり言って、29歳にもなる男がする行動じゃないだろう!
けれど急速に増していく熱の量は、あっさりとそんな理性の箍を緩ませる。

「鏡が無いのが残念だな。本当におまえはピンクが似合うよ」

ああ、本当に彼の言うとおりかも知れない、と。
火照った頬に手を当てて、俺は悪魔のような彼の後姿を、ただ見つめることしか出来なかった。



「Pretty in pink」 ローレン・シュレー監督・アメリカ


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