PERFECT DAY(5)



ロイの意識をここに引き戻したものは、それそのものが彼であるような白い手袋と皮膚の間に挟まれていた小さな石の硬い感触と、
臓腑にまで染み付いてしまいそうな焼けたたんぱく質の匂いだった。

「やっぱり寒いじゃないか・・」

掌のくぼみに沿うように収められた石の冷たさに似た砂漠の夜気が,ロイの身体を爆炎の熱から守っていた。
遠くに見える地上に揺らめく赤い海と、黒々と巻き上がり空を覆う煙の対比が見事だと、ロイは人事のように思う。

それほどにここは寒い。すべてが麻痺してしまうほど寒い。
鉛の塊がぶらさがっているかのように重たい首を緩慢に上げ、ロイは空を見上げた。

「これじゃ方角もわからんな」

土と僅かな緑と人が燃える匂いを天に伝える黒煙が、ロイから砂漠の眩い星空を隔離する。
それを見る資格など、この殲滅戦に身を投じた時点で失っているのだと納得していたはずなのに、
見えない空を惜しむ気持ちはどこから来るのだろう。

―――――もし、神が存在するのなら。

彼が住まうその場所から見る俯瞰図の中に、自分の姿が見えることを願う。
この世の地獄を生み出す火種がここに在るのだと。
この煙幕さえも用を成さないその全能の目に、焦土に佇む自分の姿が映ることをただ願う。

そしてこの姿をさらけ出し、それでも生きろというのなら。

「いいさ、耄碌するまで生きてやるさ」

これほどまでの惨事を招いた身だ。きっと、どこに行ったところで安らぎなどあるはずは無い。
そうして。
持ち上げた唇の端に、たったひとつの名前を乗せる。

バケモノじみた力ゆえに、その身ひとつでこの世の果てに向き合わなければならなかった自分に、帰ってこいと囁いた男の名を。

「死なない、死ねないよ…まだ」

野生の草花から生まれた、無臭の煙の中で遊んだ日から遠く離れて。
胃液がせり上がってくるほどの、悲惨な匂いに包まれながら、灰の中、足を取られて倒れても。

「任務遂行…完璧だ」

自分が生み出した世界の、再生の日を見届けるまで。
あの浮遊する碧を再び目にするその日まで。


―――――すべての存在に呪われても、きっと生き抜いてやる。



(2004.06.16 終了)


←短編頁



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送