IF…もしも。


どうしてこの人は。
僕を放っておいてはくれないのだろう。


手を換え品を換えて、僕のご機嫌を取ろうと頑張るこの人の姿は痛々しいことこの上ない。
ハッキリ言ってここまでまとわりつかれると、どんな反応を彼に見せればいいのか自分自身でも判らなくなってしまう。
かまえば嬉しがってどんどん付け上がると思うからこそ、つれない態度を見せていたのに、どうやらそれが仇となって
彼はますます僕を手なずけようと躍起になってしまったようだ。
手にしたサラミソーセージを振って、今も僕の注意を惹こうとしている。
昨日はボンレスハムの切れ端だった。
その前はなんだったか…たしか甘ったるい匂いに目眩を起こしそうになった、大きなビスケットだったっけ。

そんなものを口にしたら、僕が後でご主人さまにどんなに叱られるか!
この人だって僕のご主人さまに毎日さんざん怒られているいうのに、どうしてそれを判ってくれないのだろう。
やっぱりこんな人には関わり合いにならない方が身の為と、僕は今日も目の前で揺らされるサラミソーセージを無視することに決めた。

大体、この人に構ってもらいたくって仕方ない奴は他に居てるんだから、そっちに行ってくれればいいのだ。
…ホラ、噂をすればなんとやら。
僕が自由に駆け回ることを許されているこの中庭の一番大きな草叢の向こうで、この人に構ってもらいたくてウズウズしている人の
金色の髪の毛が揺れている。

もし僕が。
生まれ変わって次に人間になったとしたら。
自分のことを慕って纏わりついてくる存在を、邪険に扱ったりはしないと思う。
緑の葉叢に大きな身体を隠してこちらを伺っているあの男の人は、どうしてこんな天の邪鬼な人のことが気になるんだろう。
そんな報われない思いはさっさと捨て去ってしまう方が精神的にも良いと思うのに、なんだかあの男の人は、
僕の目の前で佇んでいる人を追い掛け回すことに、喜びを感じてさえいる様子だ。
なんだか人間って不思議だな。

でも、やっぱり。
もし僕が人間に生まれ変わったら。
あんなに慕って追いかけてくる存在を、無下には扱ったりしないと思う。

たまには餌をあげないと。
いくら好きで仕方ない相手にだって、襲い掛かって噛み付いちゃうよ。

…ほら、今みたいに。



『If もしも…』 リンゼー・アンダーソン監督・英国

(2004.1.30 初出)  


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